1話「ISO’S BAR」磯村浩之氏
D.N.A.incが設計のご縁をいただいた店舗は、病院や美容院、飲食店など、多岐にわたります。おかげさまで、いずれも繁盛しておられ、施工者としてはこれ以上ない喜びです。さて、今回ご案内する「ISO’S BAR」は、私たちにとっても特別な場所、山口に暮らす大人たちの「アジト」となっている名店です。
▲湯田温泉の名物マスターとして多くのファンから慕われる磯村氏
同店代表・磯村浩之氏は、今や湯田にこの人ありといわれる名物マスター。その感性は、私たちと共鳴する部分が少なくありません。私は彼こそ、湯田温泉の将来を創造する人物の一人だと思っています。
彼の歓楽街・湯田の文化とその将来に対する思いは人一倍です。2001年に始まる前身「ISO’S BAR」の歴史から、2014年の新店舗への移転は、その思いを実現させるためでもありました。
▲D.N.A小田浩昭(左)とISO’S BAR磯村氏
その構想とは、湯田で人が集えて、いろんなことが発信できる文化ホールのような店舗。ブライダルや音楽ライブなどができて、誰もが気軽に利用できるフロア、そして、2階奥には、入口を別にした会員制のフロアを設けようというものでした。
さらに、リノベーションの舞台となったのはかつての老舗旅館・旧西村屋で、湯田温泉の文化財ともいえる貴重なもの。昭和30年で時の流れが止まったような空間で、残されていたものを大事にして、使えるものはリノベーションの中で生かすこともミッションであると考えました。
▲喫茶部分に残されていた暖炉の人工大理石製マントルピースは、2階会員制フロアの「サイドカウンター」として再生
▲磯村氏からの1階イメージの要望は「樽の中」
キャパシティを優先させた1階では、汎用素材を用いることでコストパフォーマンスをも考慮。一方、2階会員制フロアにおいては、前述のマントルピースに加えて、「アカガシ」という貴重な木材を一枚板に加工し、カウンターの天板としました。
この木材は私の“とっておき”。使うべき場所を20年近くも待ち続けていたんです。会員制という、磯村氏ありきの特別なカウンター、お客がいっそう価値を感じられる空間を演出したいと考えて決断しました。
▲会員制カウンターの天板は長さ680㎝。見事な風合いをフロアに溶け込ませることができました
磯村氏からは、「建物ありきではなく人ありき、そこで過ごす人を中心として考えられているというのが、施主としてよく分かります。仕事をする側としても、しっかりプライドが持てますし、やはり『良い空間には良い人が集まるんだ』と、あらためて感じました。特筆すべきは居心地の良さ。長く愛したくなる空間です」と、嬉しいお言葉――。
私たちには、ちょっとこそばゆいけれど、 お施主様の喜びが、私たちの喜び。 ぜひ、湯田温泉の大人の「アジト」へ、お出かけくださいませ。